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高森明勅
2017.2.4 00:00

『SAPIO』「天皇」特集の正誤

『SAPIO』3月号で「天皇」特集。

私も文章を寄せた。

編集部が付けたタイトルは
「いまだ『譲位』に反対する者よ、
陛下の責任感への感謝は
ないのか」。

興味のある方は覗いて戴きたい。

但し、他の記事は、残念ながら感心出来ないものが多い。

例えば思想史研究者で慶應大学教授の片山杜秀氏の文章。

せっかく面白い視点を提示されようとしているのに、
昭和21年の元旦詔書についてこんなことを。

それまでの天皇は現人神(あらひとがみ)とされていた。
国土を創造した神々の直系の子孫。
だから尊いとされた。
ところが昭和天皇は、天皇とは一個の人間にすぎないと宣言した」

思想史の専門家とは思えない粗雑さ。

まず、あの詔書で最も大切なのは冒頭の「五箇条の御誓文」で、
神格は二の(次の)問題」だった(昭和52年8月23日の
昭和天皇のご発言)。

またこの詔書は、よく知られているように、
元々GHQの要請に基づく。

その原案に、天皇を「神の裔(すえ)」
とする伝統的な考え方を
否定する表現があったので、
昭和天皇のご意向もあり、日本側は
拒否し、天皇を「現御神(
あきつみかみ)」と見る観念を架空と
するように、改めている(
木下道雄『側近日誌』)。

つまり、片山氏が無造作に並記している「現人神」と
神々の直系の子孫」は、同詔書が出される際には“二者択一”
として扱われた。

しかも、天皇は「国土を創造した神々の…子孫」ではなく、
天照大神の子孫であることが、第一義。
それは皇室の祭祀を見れば明らかだ。
「一個の人間にすぎない」
という趣旨の表現も、詔書中には見えない。
ジャーナリストの東谷暁氏の文章も残念。

「(昨年8月8日のお言葉が)『内閣と相談しながら』
なされたのであるとすれば、内閣は天皇への『助言と承認』
行っていたことになる。

しかし…内閣が助言をして天皇に『ご意向』を発表していただく
などという条項は(憲法の)
どこにもないし、そうした解釈の根拠に
すべき条項も見当たらない。

したがって、安倍内閣は恐るべきことに、
天皇の国事行為あるいは公的行為ではない行為に
『助言と承認』
を行ってしまったことになる」

東谷氏は「天皇の公的行為」について、基礎的な知識もないまま
この文章を書いてしまったようだ。

まず、公的行為には「内閣の助言と承認」は不要
平成2年5月17日の衆議院予算委員会での工藤敦夫内閣法制局
官の答弁ほか)。

更に公的行為は、天皇が憲法上「象徴」とされていること(第1条)
根拠として“期待”される行為で、
国事行為がポジティブリスト方式で
あるのに対し、
ネガティブリスト方式。

だから「条項はどこにもな」くて当たり前。

昨年8月8日のお言葉は明らかに公的行為。

だから、安倍内閣は勿論“助言と承認”(
その実態は以前に紹介した)
は行っていない(但し同意し、
責任を負う)。

同氏は混乱の余り「クーデター」とか「違憲行為」とか
物騒な表現を連発している。

まさに無知とは「恐るべきこと」

更に、全国民に向けた天皇ご自身による「ご意向」の表明が、
今後も頻繁に行われると錯覚しているようだ。

これは、「譲位」という事柄の重大さが理解出来ていない為。

評論家の古谷経衡氏の文章も、野田政権が「女性宮家」

取り組んだ背景に、宮内庁(更に皇室ご自身)
の深刻な危機感が
あった、
という最も大切な事実を見落としているのは、何故か。

憲法学者で麗澤大学教授の八木秀次氏は、
皇太子殿下が即位された後、秋篠宮殿下が皇太子とされない点に
ついて、驚くべき発言を。
それは、皇太子という概念の解釈によります。
皇室典範を改正しなくても
『皇太子は必ずしも天皇の子で
なくてもよい』
と考えることはできます」

どうやら八木氏は皇室典範を読んでいないようだ。

第8条にこうある。

「皇嗣たる皇子を皇太子という」この場合の“皇子”とは
「現に皇位にある天皇の子」(園部逸夫『皇室法概論』
)を指す。

典範に明文の規定がある以上、「概念の解釈」の話ではない。

だから、典範も読まないで「必ずしも天皇の子でなくてもよい」と
「考えることは」
八木氏の勝手だが、法的には無意味。

皇太子殿下が即位されたら、秋篠宮殿下は
「現に皇位にある天皇の子」ではなくなる
現に皇位にある天皇の弟!)。

従って、もし「皇太子」に準じた位置付けを考えるなら、
“必ず”
法的な手当てが必要になる。

こんな初歩的な知識もなく、これまで発言していたとは。

なお、同誌の靖国神社関係の記事にも、私のコメントが載っている。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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